「『明けましておめでとうございまーす!』」

「な、なんだそれ、、、、?」

干からびた豆は生き生きとしたに突っ込む。

「何が『明けて』めでたいんだ?」

この頃の指導の元、この国の言葉を習ってきた。そしてこのエルリック兄弟は難なくともいかないがなんとか日常会話ができるぐらいには上達した。だがいかんせん、この国の文化はいささか、特殊すぎたようで。このような質問をエドは発した。

「ようは新しい年になったよ!おめでたいね。ぐらいの意味じゃない?」

こちらもいい具合にくたびれているアルがエドに答えた。

「アル、あったまいー!せーかい!!」

パチパチとは拍手をする。

「なんとか大掃除、終わったねー」

自分の自宅が綺麗になって満足げなは二人に飲み物を渡す。

「お。サンキュ」

「ありがとう」

エルリック兄弟はそれぞれ礼を言いながら受け取る。

「いやいや、ぼくの方こそ我侭言ってごめんね」

そう言いつつは小エドと小アルのために毛布をかけてやる。

二人もついてきて食器を拭くなど手伝ってくれたのだ。

しかし、除夜の鐘が鳴り出すかなり前に二人はテレビの前を陣取って寝てしまった。

「ふーん、わかってたのか〜。さすがにそこまでもお子様じゃないか」

エドがにやぁっと笑いつつそう言うと「お子様ゆーな!」とはエドに拳を振り上げる。それをアルがなだめて皆して笑う。

 

 

「二人とも旅の準備はできてるよね」

「ん?ああそういえばお前なんで旅の準備なんかさせたんだ?まさか泊りがけで大掃除させるつもりだったのか!」

嫌そうな顔をしてエドはそうに突っ込む。

「違う、違う。」

「そうだよ、兄さん。ウィルさんの話ちゃんと聞いてなかったでしょ?」

このエドの反応にアルは思わず眉をしかめた。

「へ?ウィルなんか言ってったっけ?」

「ほら、ウィルさん外国にある実家に帰るって。」

「ああ?そうなのか?」

全然記憶にないらしくエドは視線を宙に彷徨わせた。

「そうなの!それで僕たちはにお世話になることになったでしょ。」

「でもそれならいつもみたいにウィルの家にが来てくれればいいじゃん。」

エドはさも当然のようにそう言いのけた。

「あ〜、それでもよかったんだけどね。がね連絡しちゃったんだよ。」

は頬をカリカリとかきながら視線をあらぬ方向へと流した。

「、、、、どこに?」

そのの反応に何かを覚えながらエドは聞いてみた。

蛇足としてこの時点でエルリック兄弟はが関っていると聞きいいことではないだろうと彼らは予感していた。

「ぼくの故郷に。」

ここまで言うとは疲れたようにため息をついた。

「なんて連絡したの?」

アルもことの詳細を聞かされてなかったので興味が湧いたのか聞いてきた。

「うん、、、。なんだかぼくが帰るとか言っちゃったらしいんだ。」

そこでまたはため息をつく。

「それで今年は帰らないと行けないんだ。」

それはそれは憂鬱そうには語る。

「、、、、なんでさっきからそう憂鬱そうなのさ?」

アルが見かねて聞いてあげた。

「あーそれは行けばわかるよ。うん。」

「あ!でもちびたちはどうするんだ?」

エドは寝ているちびたちを見た。

「それは大丈夫。連れてったって誰も驚かないから。少し話の種になるくらいさ」

は肩をすくめた。

「さて、大掃除も済んだしちょっくらぼくの故郷まで車で旅に出ましょうか」

そうしてを筆頭にエドたちはワゴンに乗り込むと闇夜にまぎれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は東北。ここは未だ日本古来の八万の神々が息づいている場所。

その建物は日本の昔ながらの農家の家だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『明けましておめでとーございまーす』」

そう言うとはがらっと引き戸を開けた。

「「『明けましておめでとうございまーす』」」

エドとアルもに習って挨拶をする。

「『あら、まぁ、、、。よく来たわね。ちゃん。おばあちゃーん、おじいちゃーん。くんが来たわよー』」

出てきた女性は日本語でそう言うとを急に抱き締めた。

これにはエドもアルもびっくりした。

「『もう、帰ってこないかと思ってたわよ、、、よかったー!』」

「『ちょ、姉さん、離れてー!』」

「「『ねえさん、、?』」」

エドとアルは聞きなれない単語にお互いに顔を傾げた。

「あ、エド、アル、こっちはぼくの父方の遠縁の親戚で、、、」

「私はの遠縁の親戚のユミです。よろしく。」

彼女はにこにこと笑顔でエルリック兄弟に手を差し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へーじゃあ、ウィルの従姉妹なの?」

居間に通されながらエルリック兄弟はのいう「姉さん」ことユミの説明を受けていた。

「そう、ウィルと私は従姉なの。そしてちゃんともかなり遠縁になっちゃうけど親戚なの。」

ねーというとユミと名乗る彼女はの頭を撫で繰り回した。

「『もーやめてー』」

半分怒りながら、半分泣きながら。

「もう、そんなかわいい顔で言ったって」

今度はぷにぷにとほっぺを弄ばれている。

「『もう。姉さんじゃ話にならない!おばさんはどこ?』」

「まぁ!までみたいになっちゃって!あのかわいかったちゃんはどこにいったの!?」

ユミは大げさにそしてわざとエドとアルにも分かるように英語で言った。その途端の顔は朱を注いだように真っ赤に成り果てて「もういい!じいちゃんとばあちゃんに挨拶してくる!」と言い捨てるとどかどかと母屋の奥へと入り込んでいった。

「うふふふ、、、。あら、ごめんなさいね。に会うの久しぶりなものでつい」

つい、であそこまで人をおちょくれるものなのか?とエドは感じながら目の前にいる人は確実に自分たちの世話になっている・ウィル・ウォルサムの血縁者であることを認識した。

「あの子がここに帰ってきたのは何年ぶりかしら。」

懐かしそうに目を細める彼女は先ほどのをからかって楽しんでいた本人とは考えられないほどの違いを醸し出していた。

「しかも友達を連れてくるなんてね」

本当にうれしそうに顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じいちゃん?ばあちゃん?」

は静まりかえった屋敷の奥の間に入った。

「おお!!久しぶりだの」

「ええ、何年ぶり?」

そこには老夫婦が座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと君がお兄さんのエド君?」

アルを見ながらユミは兄弟と話し始めた。

「誰がミジンコドチビで兄に見えないとー」

「兄さん、どうどう」

いつものことながら暴れる兄を抑える弟。それをユミはくすくすと笑った。

笑われているのに気づいたエドは不可解な顔をした。

「あぁ、ごめんなさい。ウィルの言ってたことが頭によぎって」

「「、、、、、どんなことを、、、、」」

二人は予期しながら声をも聞いた。

「大小の弟と兄の二人組みがと一緒にやってくるかも。その兄弟はなんだか、、、そう大道芸人気質な人たちだとか」

くわっとエドの釣り目がますます釣り目になった。

「だわぁれぇがぁ」

「お願いですから兄さんで遊ばないでください!」

アルはこれはきっとウィルがエドのことを遊べるオモチャとでも喧伝したのだろうと想像が浮かんだ。

あの人ならするだろう、ああもう絶対するな、うん。

ここには来てない、あの年かさの行った友人がはっはっはっと笑っている姿がアルにはありありと思い浮かべることができた。

そんな二人の姿を見てまたカラカラとユミは笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、10年経ったのかのう」

曽祖父が、正しくはの曽祖父の弟が、口火を切った。

「おぬしがここから出て都会に行ったのは。」

「はい。」

は曽祖父らの目の前に正座で座った。

「どうだ、静一は。」

その問いには思わず視線を漂わせた。

今は父親とは会っていない。とその父親静一の二人は仲のよい父子ではなかった。

曽祖父もそれを知っていて自分に問い掛けてきている。それが悔しくて唇を噛んだ。

「その様子だと静一は今もあのままか。」

わずかに曽祖父の苛立ちが見え隠れする。

はそれが怖かった。いつ父親と同じかんしゃくが起こるのかと身構えていた。

そしてそのかんしゃくがいつ自分の身に降りかかってくるかいつも恐れていた。

そんな自分を理解していて未だその癖が抜けないことがは腹立たしく膝の上で手をにぎり締めた。

「じい!が怖がってますよ。まったくあなたはいつまで経っても血気盛んなのだから」

が怯えていること、腹をたてていることに気が付いたのはその曽祖父の隣に座った曾祖母だった。

、難儀な道だっただろう?それでも今年はまだ暖かいほうなのよ」

そう言うと曾祖母はやんわりと微笑んだ。

「あけましておめでとうございます。じいちゃん、ばあちゃん」

曾祖母の一言がの緊張をほぐしたのだろう。やっとはそう言うとお辞儀をした。

「ふむ。」

「あら、うれしいわぁ、、、曾孫の正月の挨拶が聞けるなんて。私たち長生きしたわねぇ」

うれしそうに、そう言って目を細めた。

「そうだのう、、、。そういえば今年は友を連れてくるとから聞いていたが」

曽祖父は姿を見せていない客人のことを問うた。

「いま、姉さんと居間にいます。」

「そうなの?ところで昨日は何時ごろにでたの?」

「えーっと、申し訳ありません。今日でてきました。」

はあははと頭をかきながらそう言った。

「まぁ、じゃあ客人もきっと疲れてますね。それじゃあ挨拶はあとにした方がいいかしら。」

曾祖母は気遣わしげに眉をしかめた。

「いいえ。彼らは車の中でぐっすり眠ってましたからきっと大丈夫だと思います。

でもぼくの方はちょっとできれば朝餉の前に一眠りさせていただきたいです。」

は苦笑いしながらそう言いきった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004/1/12脱稿

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