わかってるから。

ー!!」
 アルがやたらそいつの名前を呼ぶようになったのはオレ達がまだ師匠に会う前、リゼンブールに居た時だった。
 学校が終わるとアルはいつもそいつに会いに行った。でも、そいつが居たのはピナコばっちゃんの家で、オレ達は嫌でも毎日顔を会わせるようになっていた。
「3人ともお帰り」
 そう言ってあいつは笑う。いや、たぶん笑ったんだと思う。ベースはいつも無表情で、何を考えているか分からない奴だった。その上、切らないでそのまま伸ばしたような長い髪が顔の前に垂れていた。
 そいつの名前は。オレ達より丁度10コ年が上で、ピナコばっちゃんの家で機械鎧の勉強をしていた技師見習いだった。背がやたらデカくて、技師見習いなんて肩書きを持っておきながら髪を結ぶのが苦手らしく、後ろで1つに束ねた長い髪はいつも結び漏れが頬に掛かっていた。だから作業中はバンダナで前髪を全部上げていた。今ではウィンリィがよくそのスタイルをしている、あんな感じだ。
 前髪が上げられてはっきりした顔でもやはりベースは常に無表情だった。
 どっちかって言うとその感情の曖昧さがオレは苦手だったのかもしれない。けどアルはその逆で、よくの側で作業を眺めていた。
「なーんか詰まらなそうなしてるわね、エド」
 ニヤニヤとしてウィンリィがそう聞くのは当時慣例みたいになっていた。そして同じく慣例でオレは「別に」と答えるのだった。
 実際本当に詰まらなかった。
 オレ、機械鎧に興味なかったし、アルもウィンリィみたいに機械オタクって訳じゃなかったんだろうけど、やたらの側に居たがった。別に何をするでもなく、側での作業を見てるのが楽しいらしい。邪魔にならないように一歩さがって、別に言葉を交わす訳でもない。何がそんなに楽しいのかオレにはさっぱりだった。
「アル取られて寂しいんでしょう?」
「ばっか!そんなんじゃねえよ!!」
 いや、実際はそうだったのかもしれない。母さんが死んで、しばらくずっと2人だけだったから、その気持ちはやっぱりあったんだと思う。隣に居ないとどうも落ち着かない気がしたんだろう。それは今でもあんまり変わってない気がするが、一度も言葉に出して言ったことはなかった。
 オレがそう返すとウィンリィはやはりニヤニヤしてオレは何だか苦虫を咀嚼しているような気分だった。
「家に戻ってる・・・」
 だからそれを放棄してオレは1人で戻った。
「夕食には帰っておいでよ」
 そんなウィンリィの言葉を背に受けながら。
 家に戻ったって、錬金術の本を眺めるだけ、1人じゃ頭に入るモンも遅くなるような気がした。そんな訳ないのだろうけど、やっぱりアルとが気になった。

 オレはが嫌いだったのだろうか?
 いや、違うと思う。

「悔しいんだ・・・」
 そう口にだして1人酷く赤面した。恥ずかしながら・・・やっぱりそういうことなのだろうと納得してしまったのだ。
 時計を見るとそろそろウィンリィの言った夕食の時間が近付いてきていて、オレは「何だかな」と呟いてから再びばっちゃんの家へ戻った。
「あ、お帰り」
 ドアを開けて中に入るとウィンリィがそう声を潜めて言った。
「何だよ?」
 不審に思ってウィンリィの後ろに目をやってオレは息を呑んだ。
 そこにあるソファに体を沈めては眠っていた。いつもは適当に結ばれている髪は綺麗な三つ編みに結われていて、前髪もピンで留められていた。素顔なんて何度も見たことがあったけれど、俯き加減でこくりこくりと呼吸に合わせて揺れる目蓋の閉じられた顔を見て不覚にも『綺麗な顔をしてるな』と思ってしまった。
 別に美人だとかそういうことではなく、精悍な顔つきと言うのだろうか。オイルでちょっと汚れてたけど、そんな風に思ってしまった。
 けど、そのの肩に頭を寄せて寝ているアルを見て何だか脱力した。
「何だかこうして見ると本当の兄弟みたいだねぇ」
 夕食の用意をしていたピナコばっちゃん笑いながら言った。
 確かに、は金髪だし(瞳は青だけど)見えなくもないけど・・・。
「もうごはんだからエド2人を起こしてあげて」
「うえ!!」
 何でオレが?
 ダイニングにさっさと歩いてくし・・・。
 いや、タダ単に起こすだけのことなんだけど、思わず立ち尽くしてしまった。しばらく呆然と2人を見つめているという可笑しな行動を取ることになってしまった。
「ん・・・」
 そうしているウチにが自分から起きてしまった。
「あ・・・!」
「あれ、エドどうした?」
 そう聞かれただけで嫌に焦らされる。
「いや・・・あの、髪・・・」
 苦し紛れにそう三つ編みの髪を指差すとは思い出したようにそれを指でつまみあげて「ああ」と頷く。
「アルがやってくれたんだ。俺不器用だからとてもこんなこと出来ないな」
 その時、いつも無表情だったの表情が崩れた。
 はっきりと、微笑むのが分かった。
 ああ、これか・・・。
「エド?」
 ただ何となくの隣に腰を下ろした。
「それくらいオレにだって出来るよ」
 はそのままの表情で「すごいなぁ」と言って、それは何だかアルのついでみたいで『悔しい』。
「てか、技師にそれは致命的じゃないか?」
「そうだろな」
 いつもの無表情に戻ってしまった。
 分かった。
「髪、切っちゃえばいいじゃんか」
「実は願掛けがしてあって切るに切れず」
「嘘だろ」
「嘘だ」
「オレが切ってやろうか?」
「それはちょっと冒険だな」
 確かに。
「さて、そろそろ夕食だろうか?アル・・・」
 そうしてはアルを揺り起こす。
「ああ、おはよう・・・」
「おはよう。夕方だぞ」
 中途半端に寝たからだろうか、眠そうに言うアルにはちょっとだけ唇の端を持ち上げた。
 これだ。
 アルは、あっさりとのこんな表情を引き出せるんだ。
 これが『悔しい』んだ。
 それが分かってオレは思わず俯いてしまった。
「今日はシチューだって言ってたぞ。エド好きだろ?」
「牛乳入ってるけどね」
 立ち上がって遥か高位からに見下ろされる。
「行こうか?」
 オレはアルに対しても、に対しても『悔しい』のだ。
 兄としてだけでなく・・・



大変お待たせしました。
夢見堂の由宇さんへ捧ぐ。こんな感じでよろしいでしょうか?心配です。
固定主でも軍部のお題主でもない全く新しい人で、ちょっと冒険でしたけど・・・。
とにかくこんな人間の運営するこんなサイトに相互してくださいましてありがとうございました!!

 

 

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