「みゃーん」

「どうしよう、、、、、」

 

 

 

それはある雨の日のこと。

 

 

 

 

 

 

 

雨のち傘、その後、星

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は天気が愚図ついた日だった。

そんな日なのには一人、公園に来ていた。

公園の芝生にどさっと座り込んで先ほどアルと行っていた図書館から借りてきた本をぺらぺらとめくっていた。

だが本の内容は全然頭に入ってこない。

それはさっきの出来事が原因だ。

早い話、はアルを図書館に置き去りにしてきたのだ。

何も言わずに。

何故だか、わからない。

でもきっとこの言葉を聞いた時からの不満が高まったのだと思われる。

「兄さんもがんばっているんだから僕たちもがんばらなくちゃね。」

、、、いや、そこまではよかったのだ。その後の言葉だ。

「早く兄さんの体、元に戻してあげたいし。」

、、、、、、、。この一言さえなければはそこまで不満たらたらになることはなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

「なーんで、アルっていつも自分自身のことよりエドのことや他人のことばっかり気にするんだろう」

そう呟いては本を持ち上げながら仰向けに寝転がった。

「少しは自分のこと、考えてもいいじゃない、、、。」

そう小さく呟くとは本を開いたまま顔に覆いかけた。

 

 

 

 

 

 

はアルが好きだった。

とてつもなく好きだった。だからこの二人の兄弟の旅に無理矢理くっ付いて来た。

大好きな彼を元に戻す、その手伝いをどうしてもしたかった。

何よりもう一度彼の大きな手を握りたかった。

おばあちゃんが亡くなった時になぐさめてくれたその自分のより大きな、でもまだまだ子供の手。

そしてその手から生まれる綺麗な錬成陣。そして。

そんなことを思い出しながら、少しうとうととしている時だった。

それは唐突にやってきた。

 

 

 

 

 

「みゃーん」

お腹の上に何かがそーっと乗っかったと思ったその時、どうやらそのお腹の上に乗っかった物体の鳴き声がした。

「、、、、、、、、、、」

は無言でそーっと自分の顔の上に被せていた本を持ち上げ、自分の腹の上を見た。

そこには物怖じしない、大きな金色の目をした茶虎の子猫がいた。

「、、、、、、、、、」

子猫はの瞳をじっと見つめて、

「みゃーん」

ともう一度物欲しげに鳴いた。

「みゃーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく、は動けずにいた。

なぜならその子猫がなんと自分の腹の上で丸くなって寝てしまったからだ。

子猫を無理矢理降ろすこともできた。だけどなんだかそれは出来なかった。

理由は簡単。子猫がアルに似ていたからだ。

今、隣にアルがいないことがとても悔やまれた。彼は無類の猫愛好家だった。

きっとあの大きな鎧の手で、恐る恐る猫を抱き上げて撫でてあげたことだろう。

あの優しい空気を漂わせた鎧のアルとこの子猫のアル(彼女はすでに心の中で子猫のことをアルと呼んでいた)がじゃれているところを考えるだけでも心を穏やかにさせてくれる。

「、、、、、、、、、、、、、」

そこまで考えては顔を腕でおおった。

自分は何、考えてるんだろう。

そうふと我に返り、恥ずかしくて顔に血が昇り、温かくなったのだ腕越しにわかった。

彼女の悶え苦しむ姿はその後何十分にもわたって公園で繰り広げられた。

 

 

 

 

そんなことをしながら、子猫の様子を見たり空を見たりしていたら。

「、、、雨?」

ぽつり、との頬に水滴が落ちてきた。

そう確認したらすぐにぽつぽつと水滴が、雨が降り出してきた。

は、はっとして飛び起きようとしたが腹の上には猫。

その猫を驚かさないようにはゆっくりと動作を続けた。

子猫も何事かと気付いたようだ。だが一向にから離れようとしない。

あくまでマイペースに顔を洗った。

そんな猫の様子を見て、は少し乱暴に起き上がった。

この子猫のペースにあわせてたら本が濡れちゃう!

そう思い立ったからだ。

すると子猫もが慌ててるのを感じ取ったのだろう、ピョコッとのお腹の上から飛び降りた。

はそれを見るやすぐに立ち上がり、横に置いておいた本と上着を手に取った。

そして本が濡れないように自分の上着で包み込んだ。

「みゃーん」

その行動が終わった後、自分の足元から子猫のアルの声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったなぁ、、、、、、、」

は二度目のため息をついた。

腕には本を包んだ自分の上着、そしてその上には先ほどのお腹の上に寝転がっていた子猫のアルがいた。

雨は大降りになってきた。

しかし、ここは公園の少し頼りない木の下だ。だが、雨を凌ぐにはないよりマシだ。

子猫は先ほどから帰る気配を見せない。だからと言って子猫だけここに置いていくのもまるで捨てていくような気がしてなんだか嫌だった。

そんなことを考えていたらとうとう帰るに帰れないほどの雨足になっていた。

「アルには行き先も、出てったことさえ言ってないからなぁ、、、、。」

今更ながらに後悔。

こんな小さな子猫を抱えてこの中を行くのは酷なことだ。

猫は水が嫌いだ。

「あー、アルだったらこの“アル”をお腹の中に入れてせめて宿に着くまでは濡れずに連れて行けるのになぁ」

そうぼやいてもどうしようもなかった。

「、、、、、、へっくちっ」

は眉間に皺を寄せながら鼻をすすった。

このままでは自分も危ないなぁ、、、、。

とふと思ったその時。

!」

アルが傘をささずに走って来るのが視界に入った。

「、、、あ、る?」

は我が目を疑った。の目に写ったのはあの日の探しに来てくれた、アルの姿だった。

ただ違うのはアルがびっちゃりと雨に濡れていて、傘を二本ともたたまさったまま持っていることだった。

「アル、せっかく傘二本、持ってるのにささないなんて、風邪ひいてもしらない、、、よ、、、?」

はアルが困ったような焦ったような顔をしているのを見て取るとそう言った。

だが言い終わる前にの視界はぼやけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みゃーん」

、、、、、、、あれは夢だったのかな?

はそう考えた。だってこれは公園での体勢と同じだったからだ。

のお腹の上にはやっぱり子猫のアルがいて。

、、でも布団、、、。

ぼーっとしながら体を起こすとそこは今アルと二人で泊まっている宿のベットの上だった。

「みゃーん」

「はいはい、ごはんだねー!ちょっと待ってて!!」

アルの声が聞こえる。この宿の部屋に備え付けられている台所から。

「おまたせー!って!!気がついた?!」

アルはそう言うと手に鍋を持ったまま駆けて来た。

アルの姿は鎧のままだった。

はその姿を確認すると少しだけがっくりと、でも少しだけ安心した。

「もう!ダメだろ?勝手にどこか行っちゃ!!おかげで僕、街中をかなり捜したんだよ?」

アルがガミガミと怒り始める。

「みゃーーん」

だが子猫の大きな声にそれは遮られる。子猫はアルの手にあるものに夢中で飛び掛ろうとしている。

「、、、何、それ?」

が不思議そうに問うとアルはの顔に鍋を近づけた。

「ミルク?」

小首を傾げながらはアルを見上げる。

「そうだよ。もう、何考えてるんだよ!」

「“アル”がミルク欲しがってるよ」

はアルがまだまだ言葉を続けそうだったので思わず言葉をさした。

「、、、、ある?」

アルが問い返してくるのを聞いてはしまったと顔を手で押さえた。

手がひんやりして頬に気持ちいい。

「、、、、、えっとー」

「この子猫のこと?」

言い難いことをアルが言ってくれたことに感謝して一つ頷いた。

「先にミルクあげてあげて?」

は見上げながらそうアルに告げた。

 

 

 

 

 

 

「で、なんで子猫の名前が“アル”なの?」

アルが怒りながらもそのことが気になったようで聞いてきた。

「、、、、、、、、」

しかしは何も言わない。言えるわけがない。恥ずかしすぎる。

その考えが顔に出たのだろう。の顔は真っ赤だった。

「、、、、、まぁ、言わなくてもいいけど。」

声には少し、いじけた様子があった。

がすぐにそれ以外の言葉が溢れ出す。

「それよりも!なんで図書館から出て行くとき一言も言ってくれなかったの?!

それに今日は湿気が多い、雨が降るって愚痴愚痴言ってたのだろ?」

もう忘れたの?と怒りながらに水銀体温計を差し出す。

「ほら!熱測って!もう、自分で天気予報を出しておきながらふらふら行っちゃうんだから!」

ぼーっとしながらアルの小言を聞く。

あぁ、またアルは自分以外の人のことを。

「僕はね、風邪引かないけど、。君は風邪を引くんだよ?わかってるでしょ?!」

アルの小言を聞いているうちにの瞳からぽろぽろと水滴が流れ出た。

「!?!ごめん、言い過ぎた?それともどこか痛いの?」

アルはそんなの涙を見て慌てふためいた。

そんなアルの腰巻をつかんではふるふると顔を振った。

「じゃあ、どうしたの?」

アルはを落ち着かそうと自分の腰巻を握った彼女の手を自分の鎧の手で包み込んだ。

それはまるで羽のように。優しく。

「、、、なんで。」

掠れた声では言葉を続ける。

「なんで、アルはそんなに優しいの?」

涙を瞳に称えながらはアルのことを見た。

鎧は小首を傾げた。そしてすぐにおろおろとし始めた。

それはこの巨体にはふさわしくなかった。

だが。には見えていた。本当の彼が。

どんなことがあっても優しい彼の魂が。

「、、少し、は、、、、自分のことも、考えてよ!」

小さく、でもはっきりとは言葉を紡ぐ。

はまるで祈り子のようにアルの包んだ手の上に顔を下げた。

アルの鎧の手がの涙で濡れる。

「それはだって一緒だろ?!」

はっとしては顔をあげた。アルの声が悲しげだったから。

「いつもいつも、僕のことを考えてくれて、、、。嬉しいけど、、、」

その次の言葉には恐怖した。

いらない、と言われたら、、、、。

「僕だって、にもうちょっと自分のこと、考えて欲しいよ。」

はその言葉にきょとんとした。

アルは何を言ってるんだろう。

「だって、。僕たちの旅はすごくきついはずだよ?特には女の子なんだから。兄さんは君のこと、信頼してるしだから旅の同行を許してるってわかっているけど、、、。僕は疲れないからが疲れてるんじゃないかって僕はの疲れがわからないから!えぇとね、、、、あぁ、何が言いたいんだ僕は!」

アルは言葉に表せない自分を叱責した。

「とにかく!が頑張りすぎてるんじゃないかって思うと僕は不安なんだ!」

アルはやっとの思いでその一言を搾り出した。

そんなアルを見ては数回、瞬きをするとくすくすと笑った。

!僕の話ちゃんと聞いてるの?!」

自分が真剣に話をしたと思ったらは不謹慎にも笑い始める。

アルはそれが気に食わなくってまた一言付け加えようと言葉を紡ごうとした矢先にの微笑みが自分に向けられてドキッとした。

「、、、アルと私、同じだね?」

「、、、、、うん。」

違うと思うけど。アルはその一言を胸にしまいこんでの次の言葉を待つ。

「でも、、、、。」

「でも?」

アルはの言葉をおうむ返しする。

「私のこと、思ってくれるんなら、早く元に戻ってリゼンブールに帰ろう?」

そういうとアルの手に頬を寄せ

「それでまた、私と一緒に手を繋いで。」

そして幸せそうに目をつぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みゃーん」

今宵は満天の星空。

ここにも星が二つ、寄り添う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足

「、、、って!体温計、、、、ってあぁあー!!!37度8分!?!うわーん!しっかりして!!!」

「みゃーん」

「お医者さん、お医者さん連れて来なくちゃ!!!」

「みゃーん、、、」

大きな鎧が慌てふためいて宿の主人のところに走りこんだのは宿にいた客が知っていることだ。

「、、、、みゃーん、、、、」

部屋には熱を持ちながら、でも夢を見ているのであろう。幸せな顔をして寝ているとミルクのおかわりを要求している子猫の“アル”が取り残された。

 

 

 

 

 

 

 

2004/7/26脱稿

 

 

 

 

 

 

 

 

Toなつふぶきさま From夢見由宇

 

 

 

 

 

なつふぶきさんのサイト「空中庭園」と相互リンク記念小説です。

なつふぶきさんの好きなアルです。(アル、好きだったよね、、、?)

鎧アルです、、、。あれ?私何か忘れているような、、、、。

あぁああああ!!!30000ヒットのリクエスト!

、、、、、、、ご、ごめ、ごめなさい、、、、。

先に相互記念をあげちゃいました、、、、(汗)

今度またもう一本書きますので取りあえずこれだけでもお納めください。

なつふぶきさんだけお持ち帰り可。

やけに長いだけの駄文になってしまってごめんなさい。

夢見由宇

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