守れない約束がしたいの

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりにエルリック兄弟はリゼンブールに帰ってきた。

これはその時のお話。

 

 

「この前に来たのって何時だったけ〜」

「さぁ、でもできれば元に戻ってから帰ってきたかったなぁ、、、、」

「そうだね、、、、」

兄弟は沈みながらとぼとぼと田舎道を歩いていく。

もうすぐ村に入るという所で村の様子がおかしいことに気づいた。

「なんか静かだな、、、?」

いつもなら牛飼いのおじさんや誰かに捕まるはずなのに、今日はまだ誰にもあっていない。

「何かあったのかな?」

そうアルフォンスがつぶやいた。

二人は早足で村に入っていった。

 

 

「おう、エルリック兄弟じゃないか、よく帰ってきたな。」

「おじさん、お久しぶり。今日なんかあったの?」

兄弟は久しぶりにあった村の人々がみな黒い服に身を包んでいるのを見て取った。

「あぁ、いいタイミングだった。お前ら、翁、覚えてるだろ?」

翁とは村で一番の年寄りで物知りおじいさんのことだ。

かなり長く生きていてなんとエルリック兄弟の父ホーエンハイムに最初に錬金術の基本を教えたのはこの老人だったと言う。

兄弟もよくいろんな事を教えてもらった。とくに父親が出て行ってしまってからはロックベル家に次面倒を見てもらっていた。

「あぁ!翁がどうかしたのか?」

エドワードは嫌な予感がした。村人はみな黒い服を着ている。それは考えるより先に目の前のおじさんが言葉にした。

「その翁が昨日、亡くなったんだ。」

「ほんとに?!」

アルフォンスは驚きの声をあげた。

「あぁ、昨日眠るように逝っちまったってよ。お前ら、よかったな。まだお別れができるぞ。明日には埋めちまうところだった。」

おじさんはそう言うと用があるからとそこから立ち去った。

「、、兄さん、、、」

「アル、オレちょっと見てくる!」

そう言うが早いかエドワードは走り出した。

 

ところで翁のところには一人の女の子がいた。名前は。彼女はエドワードと二歳年上だった。

戦争で親を亡くして、気の毒に思った翁が引き取った娘だった。

はエドワードたちとは錬金術で縁があった。もまた錬金術師だった。

翁は自分が知りえた錬金術の技術をすべてに注ぎ込んだ。

エドワードたちが何度頼んでも決して教えてはくれなかったが。

「わしが教えてやれるものなどほんの少ししかない」

と頑なに断った。今から思えば翁は予期していたのかもしれない。エドワードたちが自分よりも大きくなることを。

そしてエドワードたちが何をやろうとしていたかを。

当時エドワードたちはそんなことは露とも知らず、自分たちが幼いせいだと思っていた。

そんなエドワードたちにとってははお姉さんであり、あこがれであり、手短な目標であった。

 

!」

エドワードは家のドアを勢いよく開け放った。

今は、みんな一時的に家に帰宅したのだろう、誰もいなかった。

!、、、!」

エドワードはそう叫びながら翁が寝室として使っていた部屋のドアを開けた。

そこに彼女はいた。かつて翁がそうしていたように揺り椅子に座りながら暖炉を見つめていた。

「、、、、あぁ、やっぱりエドだったの。きっとじいさんに呼ばれたんだね。」

そういうとは立ち上がってエドに振り返った。その動作は自分と二歳違うだけなのに大人のする動作に見えてエドワードはドキっとした。

そしてまた振り返ったの目を見てはっとした。

その目はすごく澄んでいてきれいだった。

「エド、おかえり」

は穏やかに笑った。

「え、あ、あぁ、ただいま」

エドワードはどぎまぎしながら言った。今まで見たこともない人に言われたような気がしてならなかった。

「じいさんにも挨拶してやって」

そういうとは寝台のほうへエドワードを迎えた。

そこにはの顔に劣らない穏やかな顔をした翁の寝顔があった。

「じいさんが言ってたよ。もうすぐエドワードたちが帰ってくる。元の姿になって戻ってくるって」

「、、、、、ごめんな。元の姿じゃなくて」

「いや、そう意味じゃないよ。じいさんはエドたちに会いたかったんだと思う。もうすぐ自分のお迎えが来ちゃうってわかってたみたいだから」

はそう淡々と言った。

「じいさん、最後まで悔やんでたよ。あんなことになるくらいなら自分の手元で修行を見てやればよかったって。そばで見張ってれば。」

「そんなことない!翁のせいじゃない。オレたちが、、、、」

エドワードは叫んだ。そして唇を噛んだ。目頭が熱くなる。

「じいさんからのメッセージよ。エド、よく聞いといてね。わしが今から天国に行って神様に頼んでくるから気長にがんばりなさい。

おっかしいよね、、、錬金術師が神様だなんて。その前にエドたちが元の姿になって帰ってくるなんて言いながら

まるで元の姿で帰ってこないって確信してものを言ってるのだもの」

はそう言うと肩をあげ、呆れたという顔をした。

「、、、、、エド?」

エドワードは涙を流していた。こんなに心配してくれた人がもうここにはいないということはとても悲しかった。

そんなエドをは抱きしめた。

!」

「泣いときな。」

エドワードはそう言われるとをぎゅうっと抱きしめた。

 

「そういえば、ウィンリーとこ、まだ行ってないんだ」

エドワードはバツが悪そうにから離れて目をこすりながら言った。

「すぐ来てくれたの?アルを置いて、、、」

「あはは、、、」

「よかったねーじいさん。この豆坊やはすぐ飛んできてくれたよ」

「豆とはなんだ!!」

エドワードはそうに噛み付きながらいつものだと安心した。

「じゃあ、私も行こうかな、」

「へ?どこへ?」

「何、言ってんのウィンリーとこ。ピナコばあさんに今回のことお世話になってるんだ。今日も一緒に食事をしようと言われてて」

「じゃあ、一緒に行くか。翁、寂しいかもしれないけどを借りてくぜ」

そう言うとはくすくす笑った。

 

 

「バカエド!こんな時間まで挨拶無しで、、、あっ来たんだ」

スパナを持ったウィンリーに出迎えられながらエドワードたちは迎え入れられた。

「ウィンリー、アル来てる?この豆坊やはじいさんのこと聞いて走ってきてくれたみたいで」

「豆っていうな!!!」

「そうなの?豆にしてはやるわね」

「無視かよ!」

とウィンリーは雲の上で話をしている。エドワードは完全に蚊帳の外、雲の下。

「ウィンリー、晩御飯の用意するね。その間にエドのオートメイル見ちゃったら?」

「そう、悪いわね。こっちから呼んどいて」

「引きずるなー!!」

そう言うとエドワードを引っ張ってウィンリーは作業室へ消えていった。

 

「ほれ、久しぶりでしょ?私の料理。」

食えと言ってはエドワードになみなみと入ったスープ皿を渡した。

「あちちっ入れ過ぎだって」

「そんな遠慮しないで食え!」

「いーなー、、、兄さん」

アルフォンスはぽつりと言った。

「なーに、今回食べれなくても元の姿に戻って帰ってくればいくらでも食べれるさなぁ、

「そうだねぇ、、、、」

は感傷深げにそう言うと後は何も言わなかった。少し寂しげな顔をしたのはエドワードの気のせいではないだろう。

 

 

次の日、翁は大地へ帰っていった。

その上に翁の本名、ジョナサン・という名が刻まれた石が置かれた。

「オレ、翁の名前、初めて知ったかも」

エドワードはポツリと言った。

「そう?」

意外そうにはエドワードに聞いた。

今ここにとエドワードだけが残っていた。

「小さい頃からが名前だと、、、」

「そんなわけないでしょ。私の名前はよ」

風が吹く。

「そう、私はよ。それだけで十分だわ。」

、、、?」

エドワードは怪訝な顔をしてを見た。そこには帰ってきて最初に会ったがいた。

「エド、、、、私この村から出ようと思うの」

はあの澄んだきれいな瞳で丘から村を見下ろして言った。

「どういうことだ?」

エドワードは戸惑いを隠そうとしながら聞いた。

「私をつなぎとめるものはもうここには無いわ。元々私は根無し草。」

「なら、ここに根をはればいいじゃないか」

すかさずエドワードは言った。喉がからからした。

「今ここで根を張ってもすぐに枯れてしまう気がするの」

私は弱いから。そういうとは青い青い空を見上げた。

「それに最後のじいさんからの課題なのよ。これを終えなきゃ一人前とは言えない。根を張るなんて言えない。」

「翁の課題って、、、」

「この世界を知ること。世界を愛すること。真理にたどり着くこと。」

「なっだめだ!それは」

「知ってるよ。エドとは違うやり方で真理に近づくつもりよ」

エドワードは目を見開いた。

、、、知っていたの、か?」

「じいさんがあの錬成陣を見たとき、気づいたの。それを聞いただけよ」

は風に遊ばれている髪を抑えながら言った。

 

 

「まだ、私は世界を拒否している。どこか心の奥であの戦争がおこったこの世界を拒否する心がある。

でもこの世界を愛せなきゃ、結局自分自身も愛することができないってじいさんは言って私にさっきの課題を残してったの。」

、、、、、。」

エドワードは悟った。

昨日から味わっていた違和感とはの決意の現れだったのだ。そしてこの決意は誰も止めることはできない。

それは自分自身も経験したことだからはっきりとわかった。

「いつ、でるんだ?」

「早ければ明日の朝。遅くても明日中には。」

「明日?!家とかどうするんだ?ウィンリーには言ったのか?」

「家はもう処分方法は決まってる。ウィンリーは、、、まだ、、、、だってエドたちが出て行ったときのこと思い出すと怖いんだもん。

、、、、これで村も見納めだわ、、、エド、ごめんね。約束果たせなくって。」

は唐突にエドワードに向かい合うと言った。

「は?、、、、約束?」

「、、、、、、忘れたの?ほら、出て行ったときにいつでも帰っておいで、そしたら私が出迎えてやるって」

「そういえば、、、、ついあたりまえで」

エドワードは頭を掻きながら言った。やウィンリーに出迎えられるのが当たり前だと思っていた自分が恥ずかしかった。

「もう。、、、、、ごめんね」

そうもう一度言うとはエドワードの頭を撫でた。昔よくしたように。

エドワードはその手を振り払った。

 

そしてに風のようなキスをした。

 

「エ、エド!」

はびっくりした。まさかキスされるとは思わなかったから。

「約束、破ったから違約金。」

エドワードは真っ赤になりながらそう言った。

「、、、、、、高い違約金だこと、私のファーストキスよ。、、、ウィンリーが好きじゃなかったの?」

もまた真っ赤になりながら言った。

「さぁな、、、、、。なぁ。」

そっぽを向きながらエドワードは言った。

「もし、が世界を知って、世界が愛せて自分自身が愛せるようになったら、ここに戻ってこいよ。

オレもアルも元の体に戻ったらここにいるから。、、、そうしたら、いつか逢えるだろ?」

「、、、、、いつになるかわからないわね、その約束。

それにわからないわよ?私、どっかここよりいい所があったらそこに根を張っちゃうかもしれないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、約束しよう。

もう一度逢うって。

 

たとえそれが叶わない約束だとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2003/11/14脱稿

神楽菜央へ。由宇より。

キリバンじゃないな、メモリアルナンバーのリクエストでした。

というか君じゃなければこれがメモリアルナンバーだとは誰も気づかなかっただろうに(メソリ)

今回は女の子で幼馴染、そして錬金術師とかなりおいしい設定です。しかし糖度は控えめになっております。

もしくは砂が吐けるかもしれません。<どっちや!

ぜひともお味のご感想を教えてください。

夢見由宇

 

 

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