「ねぇ、アル」
へ?珍しいこともあるもんだ。
姉さんが僕が机に向かっているときに声をかけてくるなんて。
「なあに?姉さん」
僕はすぐさま本から顔を上げて後ろを振り向いた。
そこには肩に布をかけてコップを持った姉さんが立っていた。
その情景はあまりにも。
あまりに儚げで。
いつもの姉さんじゃなかった。
「どうしたの?何かあった?」
「ううん、なんでもないの。ほら、コーヒー淹れてきたわ」
姉さんはあくまで、本当にコーヒーを淹れてきたように振舞う。
でも。
「うん、、、ありがと」
僕が受け取ったコーヒーは既に冷え切っていた。
姉さんは戸惑いながら僕が受け取ったコップを見つめながら。
何か、思い悩んでいるようだった。
「、、、姉さん?」
やっぱり、何かがおかしかった。
「アル、アルフォンス」
姉さんはコーヒーを受け取った僕の指を触った。
「!」
その瞬間、僕はぞっとした。
姉さんの指は冷え切ったコーヒーなんて比べ物にならないほど冷たくなっていた。
「姉さん!」
僕は咎めるように姉を睨もうとした。
いつから、こんなに冷たくなるまでそこにいたんだと怒ろうと。
けれどそれはやっぱりできなかった。
姉の瞳は濡れていた。
「アル、アル、、、アル」
冷たい指先は僕の頬に触れて。
そして僕の頬を包み込んだ。
そして姉は何か、何かとても安堵した様子になり。
僕の頭を自分の胸に抱え込んだ。
カタン。
コップは僕の手から滑り落ちて。
姉さんの方から布がするりと落ちて。
僕は姉さんの肩掛けがコーヒーの色に染まっていくのをじっと見つめていた。


姉さんは何にそんなに怯えていたのだろう?













2005年のいつかに脱稿
ずるずるとつづく。

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