「ここには知人を訪ねに来てただけですよ。この雨で足止めをくらって困ってたんですけど役に立ててよかった」

「いや本当に助かりました」

「すげぇ錬金術だったな!」

「おお!あんたアレじゃねーの国家錬金術師とか言うやつ」

村人は驚嘆と羨望のまなざしで寝台の上にいるイズミに話し掛けていた。

「ただの肉屋の女房ですよ。イズミ・カーティス。こっちが旦那のシグ」

イズミは簡単な自己紹介をした。たしかにイズミはただの肉屋の女房のつもりでいた。

「へぇダブリスから来たんかい」

村人たちはここは何もないよーなど言って聞かせていたがその間からエドとアルが大人の輪を潜り抜けてイズミの目の前に立った。

「アル」

「うん!」

そして示し合わせると二人はいっせいに声をあげた。

「「おばさん!オレ達を弟子にしてよ!」」

その途端ベットは宙を舞った。そしてエドとアルはその寝台の下敷きになった。

目の前には目がぎらぎらと輝く、ただの肉屋の女房イズミ・カーティス。

「おばさんちょーーーっと耳が遠くて聞こえなかったなァ

も一回

言ってくれるゥ?」

「訂正です」

「弟子にしてください、おねえさん」

エドとアルは震えながらそう訂正した。

「これ!おまえ達いきなり何を・・・」

ピナコは孫のようなものの、エドとアルの突然の行動をとめようとした。

「ボク達少しだけ錬金術を使えるんですけど」

だがそれよりもアルは早く話を切り出した。

「もっと腕をあげたいんだ!だから!」

アルの言葉をエドが継いだ。

「だめ!」

そんな二人を見下ろしてイズミは簡潔に言ってのけた。

「なんでー!」

「どうしてーー!」

二人は不満と共に疑問をぶつけた。

「私は弟子をとらないの。それに店もあるからすぐダブリスに戻らなきゃいけないし」

イズミは至極簡単な答えを二人に提示した。

「連れてってー!!」

「弟ー子ーにーしーてー!!」

その言葉を聞いた二人はイズミの手と足に纏わりついて懇願した。

「あーもうしつこい!!」

イズミはその二人を振りほどこうと足と手をばたつかせたがなかなか二人も離れない。

「錬金術の腕前を上げて何をしたいのあんた達は!」

イズミはそんな諦めの悪い二人に対して問い返した。

「えっと・・・」

「ひ・・・人の役に立ちたい!!」

アルは何かに怯んだようだがそれをエドが必死に言葉をつむいだ。

そんな二人を邪険に見るイズミ。

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピナコ先生、いますか?」

高い声が室内に響いた。

?」

エドが怪訝そうに声の主であろう少年の名前を呼んだ。

「あ、エド。おはよう。」

少し、やつれた様子を見せているが無理やり微笑んだ。その顔にはなんだか陰りが見えていた。

「どうかしたのかい?」

その様子にピナコも気づいたようで心配そうに聞いてきた。

は大人しい子ではあるがはつらつとした生気に満ちた子だと記憶していたからだ。

「爺ちゃん、、、ジョナサン・が昨日の夜、亡くなりました。死亡鑑定をお願いします。」

は淡々と、表情を変えずにそう一息に言い切った。

「なんだって!」

それに反応したのは意外な人物だった。

「、、、そちらの方は?」

は寝台に座っているイズミを見て問うた。

「イズミ・カーティスだよ。、久しぶりだね。覚えてるかい?」

イズミは緊迫したかのような顔を崩さずに次に言葉を続けた。

「師匠が死んだって、、、本当に?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『賢人と呼ばれし者ジョナサン・ここに眠る。』

の祖父、ジョナサン・の墓の銘にはそう記された。

それはイズミによる弟子から師匠への最後のはなむけだった。

「まさか、私が雨で足止めくらってた時に死んじゃってたとはね。」

墓の前でイズミは自嘲するかのように苦笑いをした。

「結局、師匠は私を許してはくれなかったってことかしらね。」

そんなイズミの横には夫であるシグが立っていた。そして寂しげなそのイズミの肩をシグはそっとだが力強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「イズミ姉さんだったのか。すっかり忘れてました。」

は朗らかに、しかし寂しげに微笑みながら紅茶を出した。

「それはひどいな。あんなに懐いてくれていたのに。」

イズミはの頭を小突きながらそう言った。

イズミはピナコと共にジョナサンの葬式を執り行った後、もうしばらくリゼンブールに滞在することにした。

それは一人になってしまったのことを考えてのことだった。

「あぁ、そういえば爺ちゃん、イズミ姉さんに手紙を残してますよ。」

はそう言うとジョナサンの部屋まで行って手紙を持ってきた。

「はい。もしも自分にもしもの時が来たらイズミ姉さんに送るように言われてたんです。」

そう言ってはイズミに手紙を差し出した。

イズミはその手紙を受け取るとその場で封を切って中身を黙読した。

そしてその内容に目を見開いたと共にを見つめた。

「なんて書いてありましたか?」

はそのイズミの様子に興味を引かれたのか聞いてみた。

、これからの話を真面目に聞いてくれるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、からも頼んでくれよ。」

エドはイズミがの家に泊り込んでから毎日のように通ってきた。

それは自分の要望を通すためもあったが落ち込んでいるだろうのことも考えてだった。

はエドとアルの母親が死んだとき、毎日のように遊びに来てくれた。励ましてくれた。

時には食事にまで招待してくれた。

そのときのことを思い出して彼は彼なりにへの恩返しをしたかったのかもしれない。

「うーん。でもなぁ、、、、。」

も困ったような顔をした。

「本当にあの人でいいの?」

「だって!すっげー錬金術師だってもこの前言ってたじゃんか!それにの知り合いなんだろ?」

エドは必死にを口説こうとする。

「いや、たしかにすごいけど、、、。それに正しくは爺ちゃんの弟子にあたる人だよ。」

「それにオレ達、将来、錬金術で生計を立てようと思ってるんだ」

エドは前から考えてた言い訳をに話し始めた。

それを聞いては少し考えるように顔を上にあげた。

「頼んでみるよ。でもあまり期待しない方がいいよ。」

それを聞くとエドはぱぁあっと顔を明るくした。

「さんきゅ!は頼りになるぜ!」

そう言ってエドはに抱きついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004/1/26脱稿

 

 

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