唐突だが、ここリゼンブールには有名な老人が住んでいる。

その老人の名はジョナサン・という。

彼は昔名が高き錬金術師だったという。

今はこの村でそのことを覚えている者も少ないが。

この村では錬金術のできる老人で博識だということで有名だった。

そして彼には一人の孫と共に暮らしていた。

その孫の名前はと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久々だね。ここに来るのも」

イズミはそう言うとどこか懐かしそうに言った。

「師匠さんとはどうなっているだろうな?」

シグが本人はにっこりと笑っているつもりの厳つい顔で言った。

「あの爺さんは元気だろーよ。死んでも死なないような気がする。私は絶対あんな師匠にはならない。

そのためにも弟子はとらん」

憮然とした顔をしてイズミは揺れる汽車の窓から外を眺めながら言った。

「それでものことは気にかかるな。ちゃんと育ててもらっているだろうか。私はそれが心配だよ」

そういうとイズミには似つかわしくないため息をついた。

 

 

 

 

もうすぐリゼンブールへと汽車が到着しようとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝のリゼンブールは雲行きが怪しかった。

昼頃になると空は暗澹たる雲に覆われ、その雲の中では雷が帯電しているのが鼓膜を通してわかった。

そしてとうとう雨は降り始めた。

それは予兆。

一人の賢人が天へ召される。

神様がいたのならその神様の涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その雨は夜通し降り続きリゼンブールにあるレイン川はその大量の水を飲み込むには小さな川だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラぁ60年生きてるがこんな大雨初めてだァ」

「もっと土のうを持って来い!」

「間に合わねぇ台車ごと突っ込め!」

村の男衆総出で川から水を溢れ出さないように土のうを積んだ。

しかし、今も雨は降り続き、水はその勢いを弱めようとはしない。

「だめだ!この先も決壊しかけている!」

「非難した方がいい!」

「くそっ・・」

堤防の一部が決壊しかけているという事実は雷のように速くみなに伝わりそしてあきらめが広がった。

「堤防が切れるぞ!」

「高台に逃げろ!」

「こんな所で何してんだ!早く逃げなさい!!」

そんな中、小さなエルリック兄弟がその場に立っていた。

「兄さん!」

「うっ・・・うん」

何かできるのではないかと思い二人はやってきたがそれは大人と子供。何もやれそうなことはなかった。

そんな背景を余所にばしゃばしゃと決壊しかけている土のうの近くに歩いていく者がいた。

「えっ・・・・・」

「おいあんた・・・」

村人は驚愕した。その者は軽装の女だったからだ。

「あぶないからはなれててください」

そして彼女は彼らにそう言うと

パシ

と手の平を合わせた。

「そりゃ俺のセリフだ!!ここはもうじき決・・・・」

「・・・壊・・・」

彼女にこの危機的な状況を説明しようとした男が言い終わる前に彼女は両の手を地面に突きつけた。

すると

という地殻が動く圧力をその場にいた誰もが感じた。

ドドン

そして一瞬にして川との間に巨大な壁を出現していた。

「これでしばらくもつでしょう。一応土のうで補強しといてください」

彼女は淡々とそう指示した。その間に大きな男が彼女に近寄り傘をさしかけた。

「おっ・・・おう!」

村人は驚きながらも指示されたとおりに動き始めた。

「ああ、足元陥没させちゃってごめんなさいね」

「信じらんねぇ・・・こんなバカでけぇの一瞬で・・・・・」

「あんた何者だ」

村人は感嘆の思いと疑念を胸に問うた。

すると彼女はこれでもかという笑顔を作って言った。

「通りすがりの主婦です」

その後、間髪いれずに彼女は血を口から吹き出して医者の所に運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を遠くから眺めていたエルリック兄弟の目には輝きが満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょうどその時、ジョナサン・は天に召された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだその時通りすがりの主婦イズミ・カーティスは師の死を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004/1/26脱稿

 

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