今日もリゼンブールは平和だった。

それが起こるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

今日はたまたまエドは一人でお使いに出た。

いつもなら弟であるアルといっしょにお使いに行くのだが今日はアルは母さんについて手伝いをしている。

いつも通り慣れた道を歩く。この道はちょっとした森に面している。

晴天の中、エドはその森の木の枝によってできた影だけを踏むようにしながら歩いていた。

だからエドは後ろから近づいてきた大きな影に気づかなかった。

 

「よっと、はっと」

できるだけ明るいところは歩いてはいけない、というルールを決めてエドワードは進んでいた。

だがとうとうその木陰も途切れてしまった。その時である。自分の背後から人が近づいてきていたのに気づいたのは。

「うわぁ!」

エドは今まで気配を感じさせもしなかったその大きな人を見て叫んだ。

びっくりしたのと同時に怖い話を思い出したのだ。

一人でいるときにボロボロの服を着た大人がナイフを持って近づいてきたら食べられちゃうよ。

ウィンリィのばっちゃんがよく話してくれたことだった。

エドは目の瞳孔を広げてまじまじと目の前にいる人物を観察した。それはピナコばっちゃんが言っていた通りのなりをした大人の男だった。

「、、、、、、、、、」

男は無言でじりじりとエドに近づいてくる。男の手には鋭くはないがしっかりとナイフが握られていた。

「う、うわぁああぁあぁあぁ!!!!」

エドは思い切り叫んだ。叫んだ拍子に口から力が出て行ってしまったかのようにエドは尻餅をついて立てなくなった。

男はエドの叫びに一瞬怯えたが、周りを見渡したが誰もいないことを確認すると嫌な笑みを浮かべてエドに近づいて行った。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

「でやぁあぁぁあ!」

木の棒を持った少年が林の中から踊り出てきたのは。

そして彼はまず男のわき腹に一発攻撃を加えた。

「うぐ!」

男はよろめいたがすぐに体制を整えた。少年はエドと男の間に立つようにして木の棒を構えながら立っていた。

「おい!大丈夫か?」

少年は男から一瞬も目を離さずに言葉を発した。

エドもどうやらこれが自分に対して言われた言葉だと気づいて首をこくこくと振った。

「、、、返事してほしいんだけどな」

それでようやくエドは少年が自分に視線を注げないことに気づいて

「うん」

と小さな声で答えた。

「よし。立てるか?」

この問いを発せられてエドは立とうと試みたが足が震えて立てなかった。

「た、立てない、、、」

我ながら情けないと思いながらエドは目に涙をためて答えた。

「、、、そうか。」

少年は苦々しそうな声をあげるとじりじりとエドのいる所まで後退した。

そしてエドに肩を貸しながら立たせた。そしてエドの耳元に顔を寄せて囁いた。

「僕が走れって行ったら全速力で逃げるんだ。ここから近い家の人をそれから連れてきてほしい。ここは僕が食い止めるから」

いいね。と少年はエドに念を入れた。

エドは怯えながらもこくりと頷いた。その時少年がはじめてエドと顔をあわせた。

エドはその少年の瞳を食い入るように見つめた。中心が黒く周りが青い、なんとも形容しがたい色合いだった。

でもエドは綺麗だと一瞬で理解した。

だがこの一瞬がこの後の明暗を分けることになるとはエドも少年さえも思いはしなかっただろう。

 

少年はすぐに視線を男に戻したがすでに遅かった。男は二人のすぐ近くまで接近してきていた。

そして男はナイフを振り上げた。

「走れ!」

少年は大声でエドに合図を送った。

しかしエドはナイフを振り上げている男から目を離すことができなかった。

「くそ!」

エドはどこか遠くで少年がそう呟いたのを聞いた。

次の瞬間エドは彼によって突き飛ばされていた。

「う、うわ、、、」

突き飛ばされてはじめてみたものは真っ赤な鮮血が流れている少年の顔だった。

「走れ!!!」

少年は語気を強めてエドに叫んだ。それによって放心状態に近かったエドもようやく金縛りが解けたかのように走り出した。

 

 

 

エドが近くの家の大人を連れ帰って来たときには顔を血だらけにした少年と道端でのされている大人が気絶していた。

後に聞いた話だがその男は流れの乞食だったそうだ。この乞食は警察へしょっ引かれていった。

ちなみに少年の名前は。この話の「ヘルマフロディトゥス」の主人公である。

 

 

 

2004/1/23脱稿

 

 

 

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