みーんみんみんみんみーん
みーんみんみんみんみーん
耳に心地よく響く蝉の声。
降り注がれる声を聞きながら木の根に寄り掛かり眠るのが幼少期から夏の一番の過ごし方だった。
夏休み
「なぁ、、、?」
「うん?」
「ここ、うるさかねーか?」
エドが目をつむって心地よさそうにしているに対して少し申し訳なさそうにそう言葉をかけた。
ここはの故郷。もっと厳密に言えばの一族の住む山奥の神社の拝殿だった。
「そーお?人の声よりはマシだと思うけど?」
それに涼しいし。
はそう言うと拝殿にゴロンッと転がった。
「、、、そうかもしれないけどさ、ここってさ教会みたいなもんなんだろ?」
暗にここで寝ててもいいのかとエドはに問うた。
「いーのいーの!ぼくがいいって言ってるんだかいいの!」
どういう理屈なのか、はちょっとエドにつっけんどんに言い返す。
「、、、、あーあ、こんなことならエドも置いて来ればよかった!」
ちなみにアルはここにはいない。村の子どもたちに懐かれてしまったアルと小人たちは今頃子どもたちの餌食になっていることだろう。
エドはエドで子どもたちに懐かれてはいたが、本人曰く子どもの扱いがわからないということでと共に避難してきたのだ。
はでエドが子どもと一緒にいるとき、何故か辛そうにするのが気に掛かって一緒にここに連れてきたのだ。
それほど、子どもと一緒にいるエドは辛そうだったのだ。
エドはエドでにこの神社のことを聞けるかもしれないと密かな期待を胸にに着いてきていた。
それが神社に着いた途端、は昼寝をしようと持ちかけてきた。
エドにしてみれば当てがはずれたことになる。
みーんみんみんみーん
みーんみんみんみーん
「なぁ、さっきから鳴いてる虫って何?」
エドは不思議に思って聞いた。
自分たちの住んでいた村にはこれまでけたたましく鳴く虫はいなかったように思われる。
「あー蝉だよ。蝉。今鳴いてるのはその蝉のなかでもミンミンゼミって呼ばれてる。」
はうとうとしながら答えた。
「ぼくはねー夏の訪れを告げるニイニイゼミがすきなんだけどね。この蝉も嫌いではないなー」
ぼーっとなっているのだろう、独り言のように言葉を続ける。
「ニイニイゼミの方がもう少し声が小さくてね、昼寝のお供には最適なんだよねー、、、、」
うとうとうと。言葉の端々からそんな言葉が聞こえてきそうなほどゆったりと語る。
「へー、、、じゃあ、オレはそのニイニイゼミの方が断然好きだな。」
エドは苦々しく言った。多分にから期待していた話を聞き出すのが上手くいかない気持ちと、だからといって今持ってきている本を開く気持ちにもなれないことに苛立ちを覚えたからだろう。
せめてこの虫の音がもう少し小さければという気持ちが湧いているのだろう。
「あー、、、エド。言っておくけどこの暑さの中、本を読もうと思っている君の方がどうかしてると思うよ?」
はでここに着てからエドが片時も本を手放そうとしてないのに気付いていた。
そして何故さっきから虫の音が気になるのかもうすうす気付いていた。
自分も過去に暑さのためにできないことに、その他の要因のせいにしてそれを一々潰してったことを思い出していた。
でもすべて潰しても出来なくて、またそれでいらいらした。
しかし、暑さに勝とうなどとは無謀なことだったと今なら思うことが出来る。だから世間では夏休みと言うのが存在するのだ。
「えどー、、、今はここに休みに来てるんだから。君も昼寝しよー、、、、、」
の語尾がどんどん不明瞭になってきた。
「でもなー、、、この本、もう少しで読みきれそうなんだ、、、、」
エドはエドでの言っていることが理解できなくも無い。
自分たちの住んでいた場所とこの日本とでは気候がまるで違うことはここ数ヶ月での季節のめまぐるしいほどの変化を見てきてわかったつもりだ。
しかし、今までの習慣が抜けないと言うか、エドのもともとの性格からして一旦読み出した本は早く読み終えたいという気持ちも負けてはいない。
「、、、、、、、、エド。少しは休まないと体に毒だよ?だから身長伸びないんだよ。」
「誰がチビだとこのヤロウ!、、、、お前には言われたくないね。オレよりもチビのくせに!」
「、、、、、、日本人と自分を比べるなんてなんて可哀想なエドワード君なんだ。知ってるかい?モンゴロイドはコーカソイドより身長は伸びないのだよ」
「ああ!?、、、モンゴロイド?コーカソイドってなんだ?」
エドは聞きなれない単語に質問で返した。
「うーん?知らないの?黄色人種と白色人種のことだよ。ぼくの肌はどちらかというと黄色味がかっているでしょ?
それに比べてエドやアルは白い。だからエドたちは白色人種、コーカソイド系でぼくは黄色人種モンゴロイド系ってこと。」
は少し覚醒してきたのか語尾がしっかりしてきた。
「ふーん、つまり人種のことか?」
「そうそう。なんだ、エドはこの手の本、まだ読んでないんだ。この前アルが読んでたからエドも読んだのかと思ってた」
心底、珍しいことだったのでは体を起こしてエドを見た。
アルが読んだ本はエドも、エドが読んだ本はアルも大抵読んでいるということがの中での兄弟の定義だったので本当に驚いていた。
「ああ?アルが?へーそんなん読んでたんだ。今度オレも読ましてもらおーっと。
ってなんだよ??その顔は。オレがまだ読んでないってことがそんなに珍しいのかよ?」
「あぁ、珍しいね。というより驚いた。エドとアルって興味持つことって同じのだと思ってたから。」
真剣な顔をしては顎に指を添えた。
「あのなー。いくら同じ兄弟でも個性くらいはあるわ!違うことに興味を持って何が悪い!」
ムキーッとエドはに食いかかった。
「いやいやいや、だってエドとアルって双子みたいなんだもん。」
「はぁあぁ?」
エドは真剣に言っているの顔をまじまじと見つめた。
「あいつとオレがぁ?どこがだ?」
「えー?気付かない?」
がおかしそうに言う。
「うー、、、アルの方が料理はうまいし、、、、ひどく嫌なことだが背もオレより高い。なによりあいつはオレなんかよりずーっと優しいぞ?」
「あーそういうことを真剣に言うところなんかがそっくりだよ?」
「へっ?」
エドはの言葉に間抜けな声をあげた。思っても無かった言葉を返されたからだ。
「アルもエドもお互いのいいとこばっか言ってるよ」
「おいおい、アルにも同じこと言ったのか?」
少し呆れた。そんな言葉がエドの表情から読み取れる。
「あ、馬鹿にしないでよ?ぼくとしてみればすごく羨ましいんだから!
何だかんだいっててもお互いのこと1番分かり合っているってすごく感じるもん!」
なんだかすっげーいいなぁって。
木々に覆われた視界の中、それでも見える青い空をは見上げながらそう言った。
「兄弟っていいよなぁー」
ぼやいた。
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