「お前らとなら笑って話せると思ったのに!」

そうぼくは言い放つと食器を片付け始めた。

本当はここからいなくなりたかった。すぐにでもこの部屋から飛び出して行きたかった。

穴があったら入りたい、そんな気分。

だけど後のことを考えるとそんなことはできなかった。

図書室でお茶をしたということだけでも師匠はいい顔をしない。

ましてそれがもしこのまま放置されていたらきっと笑顔で問い詰めてくるに違いない。

ぼくはあの人のなんとも言いがたい笑顔での無言の圧力がとても怖い。

後でなにをされるか、、、想像するのも嫌だ。

 

ぼくはてきぱきと、二人を視界にいれないように片付け部屋からすみやかに出て行った。

『はぁ、またやっちゃったよ』

一人ごちる。

わかっている。理解しているはずだった。こう反応されるのは。

今までだってそうだった。いくら仲がよくなってもこの話をした途端、相手は自分のことを腫れ物でもさわるかのような態度に変わってしまう。

いくら医療技術が進んでいると言ってもぼくみたいなのはまだまだ例が少ない。

代理出産自体はポピュラーになったがまったく母親がいない例なんてどこにもない。

遺伝子的につながりのある母親が死んでから生まれた子ども。

遺伝子的につながりがなければ出産した人とは母子とは呼べない。それにすぐ代理母からは引き離される。

ぼくはよりどころがなかった。自分の存在の。

 

それをまだ知り合ってから間もない彼らに話したのは自分だ。

いくら錬金術を理解してくれるからって自分のそのことも理解してくれるかと言えばそうではない。

なのに錬金術の話ができることではしゃぎすぎて話してしまった。それがとても恥ずかしい。

「なんでぼくってこんなにばかなんだろ、、、、」

あーあ、きっと嫌われた、絶対嫌われた。

そう思うとずーんと胸の奥が重くなった。涙が出てくる。

嫌われたくなかったのに。

「くそう、、、、!」

そう言うとぼくはコップをがしがしと洗い始めた。

 

コップを洗っているとアルがやってきた。

ぼくはコップを洗いつづける。まるでさっきの出来事を洗い流すかのように。

それと共に涙も流れていく。

『涙よ、止まれよ、、、』

ぼくはそう思って口をへの字に曲げた。顔の筋肉を使えば少しでも涙が止まるのではないかと思ったから。

でも予想に反して涙はぽろぽろと出てくる、、、、。

『くそっぼくの泣き虫!』

自分に心の中で罵倒をあびせる。

「、、、、、、」

あぁ、声をかけんなアル、つーかお願い今はかまわないで、、、。

ぼくは切実に願ったがアルは立ち去る気配がない。

?」

「なんだよ、、、、、アル、、、」

しょうがなく口を開いた。

「さっきはごめんね、、、、、」

「聞きたくない!そんなこと言わなくていい!!」

「いや、その事じゃなくて、、、」

「なんのことだよ!だまれ!!」

あぁ、これで確実にぼくはアルに嫌われた、、、、自分の言葉にショックを受けている自分が可笑しい。

アルはそんなことを考えてるぼくを他所に一呼吸置くとこう言った。

「さっきのこと、謝ったことを謝りに来たんだ、、、、」

「どういう意味さ、、、、」

あぁ、コップが洗い終わっちゃった、そう思いながらぼくはコップを置いた。

そうしてアルを見つめた。

アルはまた一呼吸置くと話し始めた。自分たちの母親が死んだ時の話を。

 

 

 

「小さくってその時はわからなかったけど、きっと今のと同じ気持ちだったんだと思う。」

アルは母親が死んでから自分が感じたことをたんたんと話していく。

「僕はかわいそうな子どもじゃなくて自分を見てほしかったんだと、ありのままの僕を受け止めて欲しかったんだと」

「同情とかなんかが欲しかったんじゃないと」

アルがその話をしている間、ぼくはアルから目をそらさなかった。そらしてはいけないと感じだ。

アルは目を上げると言った。

「だから、が言いたいことはわかったんだ、、、が同情が欲しかった訳じゃないって。だからごめん。確かに最初ちょっとだけ同情した。でももうそんなこと思わない。だってだもの。僕はが好きだもの。」

そう言われてぼくはますます、やっと落ち着いてきたってのにまた涙が出てきたのを感じた。

『ちくしょう!何なんだよ。アルはぼくを理解してくれた!うそだろ。それに嫌われたと思ったのに、、、』

そう思うとますます涙が出てくる。照れくさいし恥ずかしいしどうしようもない。

「アル、、、、さっきはぼくも言いすぎた。ごめん。、、、、それにぼくも気が早かったんだと思う。、、、錬金術を認める人ってあまりいないから、、、、うん。こっちもごめんね。ぼくもアルのこと大好き」

言い終えるか終えないかで涙がぼろぼろと出てきた。

きっとぼく今絶対変な顔してるよ、、、、。

そんなことを考えていたら突然アルがぼくを抱きしめた。びっくりしてアルの顔を見上げる。

年下のはずなのにぼくより身長の高い穏やかな彼の顔がそこにはあった。

「泣かないで、、、って言っても泣いちゃうんだろうから僕の胸を貸してあげる。」

これでチャラにしてね。そう言われた。

アル、、、お前って結構恥ずかしい言葉すらりと言うんだね、でもそれが今のぼくにとってはありがたかった。

変な顔を見せずに済む。

「あぁ!チャラもチャラ!、、、アルって絶対女にモテんな。優しいし。男のぼくも惚れちゃいそうだよ。」

そういうとアルは照れたようにはにかんでみせた。それが同姓のぼくから見ていけ好かない奴に彼を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ぼくはアルにさっきのことを言われてすぐに復活した。なんて現金な奴だろうと己でも思ったほどに。

でも、やっぱりエドには普通に接することができなかった。

エドの態度がやっぱり怒っているとわかったし、エドにさっきひどいことを言ったと言う自覚していたから。

ぼくだって「ちび」「こども」「おさない」「いいこ」とかいわれたら切れる。ぶちぎれる。

だからと言って謝るにはタイミングがいる。ひとまず今日は退いて一夜明けてからにしようと考えた。

そうすれば少しは謝りやすくなるだろうと思って。でも本当は逃げているってことも心のすみでは気づいていた。

 

 

 

ぼくは言い訳をつけて一旦自宅へ帰ることにした。本当なら今日は徹夜でレポートをやらなくてはいけないから帰る時間も惜しかった。それでも頭を冷やすために帰ることにした。

師匠が「お家が恋しくなった?」と聞いてきて少しむかついた。

ぼくは資料が入った鞄を持って家を出た。少し外は寒かった。でもそのおかげで空気が澄んでいて星がきれいに見えた。

こんな辺鄙な林に囲まれている所だったからありがたかった。街の街灯があるところまでは少し歩かなくてはつくことができないから。どんな小さな星光でもなにもないよりはありがたい。

でも途中でぼくは立ち止まってしまった。

「あーもう冬の星座になってるよ、、、」

オリオン座を見つけもう冬なんだなと気づいたから。こんな冬の日はよく空が澄んでいたから師匠の所に泊り込んでは星を見ていた。その時に最初に覚えた星座がオリオン座だった。

 

ぼくは鞄を置いてその上に腰掛けると溜息をついた。そして誰に言うともなく、ポツリと言った。

「星がきれーだなー」

「そうだな」

後ろから声が聞こえてぼくはびっくりして後ろを振り返った。

「な、何しに来たのさ?」

そこにいたのはエドだった。ぼくはおもわずどもってしまった。

を送っていこうと思って」

エドの言葉を聞いてますます驚いた。

「「、、、、、、、、」」

二人はその後会話に詰まってしまった。

 

「その、ごめんね」

ぼくは意を決して謝った。今日のことは自分が悪い。自分が気を急いだから。

「うーん、その急に怒りだしちゃって」

ぼくは空を見上げながら言った。なんとなくエドを見るのが怖かったし照れくさかったし。言葉を見つけながら話し出した。

「、、、、、、」

エドは言葉を返さない。それをぼく不安に思った。

「エド?」と声をかけ、エドの顔を見た。

、お前、何に怒ってたんだよ」

「へ?」

ぼくは素っ頓狂な声をあげた。なぜそんなこと聞かれるのかわからなかった。

「だから何であんなに怒ったのかオレは知りたいの!勝手に自己完結させんな!」

エドが声を大きくして言った。ぼくはおもわず後ず去った。

 

 

 

「え、あ、うー」

ぼくは言葉らしい言葉を発していなかった。言葉を必死に探して目をいろんな方向へ漂わせる。

「言わなきゃ、、、、」

だめかなぁと思いつつエドを見た。

「、、、オレはアルのように気が付くほうじゃないんだ!オレは言ってもらわなきゃわからない!」

エドは半ば怒鳴った。その声にぼくはびくっと肩を揺らした。怒っている。エドは絶対怒っている。

ここは言わなきゃいけないだろうとぼくは観念した。言わなきゃ、きっともっと怒られる。

 

 

「、、、、その、エドたちなら、、、、」

ぼくは言葉を捜して選んで話し始めた。

「エドたちなら、さっきのことを言っても態度、変えないで付き合ってくれるんじゃないかな、、、と」

「へ?」

「だから!エドたちならぼくのことかわいそうだとか、変な奴とかそんな感じの目で見ないでくれると思ったんだよ!」

ぼくは思い切って叫ぶようにエドに向かって言った。

「ぼくは同情とかそういう類のものはいらないんだ。ただ同じ場所からものを見ることができる、、、」

ぼくはそう言うと口を閉ざした。最後の方がなんか涙声になって言えなかった。

エドはポカンと口を開けていたがそのあとにんまりと笑った。

そしておもむろにの右側に立ってしゃがむと左腕をぼくの肩にまわした。

ぼくはそのエドの行動に驚いたようでエドの顔をまじまじと見つめた。

「な〜んだ!そんなことだったのか!」

「な、そんなことって!」

ぼくはむっとしてエドを睨んだ。

「オレはそんなこと考えてなかったぜ。」

「は、、、?」

「たしかに最初は驚いたけどな。」

エドはの首を自分の首に近づけて

「それだけのことだよ」

 

 

 

 

 

 

「お前が勝手に勘違いしただけじゃないか!」

エドはそういうとにししと笑いながら座っていたぼくを引っ張り立たせた。

「オレはがかわいそうだとか同情に値するとかそんなこと一切考えなかったぜ。そんなことよりが今ここにいることの方が重要だと思うね。どんな方法で生まれたにせよ」

「だってさ、今ここにがいなかったら少なくともオレは寂しいと思うぜ」

 

 

 

 

 

 

 

それを聞いた途端ぼくの中でなにがか急激に融けて崩れていくのがわかった。

それは涙としてぼくの涙腺から、ぼくの声として声帯から飛び出してきた。

「う、、、うわーん!」

「へっな、何だ!ちょっと、?どうした?!」

エドはなんでぼくが泣き出したのかわからないようであたふたしていた。

くそう!ぼくがこんなに泣いてるのは君のせいだ!

「エドのばかー」

「なぬ?!」

エドは心外だという顔つきになってぼくを見た。エドとしてはこれで仲直りのはずだったのだ。そりゃあ心外だろう。

そんな彼がぼくはとても大切だと心から思った。

「うわーん!大好きだー」

そう言うとぼくはエドに抱きついた。

エドは驚いたような顔をしたがすぐに困ったような顔になった。

!泣くな!今何時だと」

「大好きー」

ますます困っていくエドの顔を見ないようにぼくは顔をエドの肩にのせた。

「泣くなー!オレが泣きたいよ!」

そう言うとエドが涙声になっているのがぼくの耳が聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬の星座がまたたく今日

 

今日は泣いてばかりの日でした。ぼくは男なのにねぇ、、、しっかりしろよ。

ぼくはとても大切なともだちができました。

最初ぼくが嫌われるような行動をしたのに好きだと言ってくれました。

ぼくより年下だけどぼくより物事を知っていて、ぼくより大人な二人です。

そしてぼくはこの二人には敵わないと思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2003/11/13脱稿

 

なんじゃこりゃーというお声が聞こえてくるようでございます。

ごめんなさい(土下座)

読んでくれた方、ごめんなさい(土下座)

なぜこんなことになってしまったの、、、?

主人公こどもすぎです。

これをアップした時のことが怖い、、、なんか某サイトの管理人にこの内容を言ったら「ボーイズラブ?」と聞かれるし、、、。

違うんだ!これは友情だ!友情なんだ!友情になるんだ!(???)

終われ

 

 

 

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