無神論者たちのクリスマス
「あーだるい、だるい、だるい」
「うるさいよ、くん。」
は文句を垂れるに一言入れる。
「だってーぼく、キリスト教信者じゃないしー」
そう言いつつ彼は器用にジンジャークッキーの生地を麺棒で伸ばしていく。
「大体さ〜一神教っていうのがどうにも腑に落ちない。」
はぐちぐちとこぼす。
「あ、ちびエド、ちびアル、出来たよ。型とってー」
「おう!」
「うん!」
ちびたちはが呼ぶとすぐに頭をぴょこんとテーブルの上に出して反応した。
そしてテーブルの上によじ登るとそれぞれにクッキーの型を持って平たくなったクッキーの生地に向かって行った。
「それにさー、どうしては意地でもクリスマスやるの?毎年毎年大変じゃん。」
は眉間に皺を寄せながら聞いた。
そう、毎年は意地でもクリスマスをやろうとする。それも本格的なものを。
さすがに教会に行くまではしないが彼が故郷でやっていた行事をそのまま再現しないといけないらしい。
どんなに年末に忙しかろうと修行や研究をストライキしてでもクリスマスをやり遂げなければ気がすまないらしい。
そのしわ寄せは見事に弟子である、の身に降りかかってきている。
からみれば理不尽でしかたない。
「それに今年はますます本格的になってはいませんか、、、、、?」
うんざりした顔ではの作っている物に目をやる。
それはプティングだ。真っ黒いクリスマスプティング。昔ながらの何ヶ月もかけて作るプティングだ。
ドライフルーツなどが入っていてかなり度の強いラム酒の香りがぷ〜んと漂ってくる。
それを見ては
「うげぇ」
と吐く真似をする。の一番嫌いなクリスマス料理だ。
これにサワークリームをつけて食べると言うが想像もできない。したくない。
「今年はねー特別だからねー。家族が増えたからね。奮発しなきゃ!」
「しなくていいってば」
そう、突っ込みつつはなりに喜んでるんだ。今年はにぎやかなクリスマスを飾れそうだと。
やっぱり二人よりは三人、三人よりは四人だ。それにちびたちを含めると7人だ。家族は多ければ多いほうがいいんだろう。
彼の家族は大家族、いや一族といっても過言ではない。一族でのクリスマスから考えればまだまだ小さいだろうけどやぱっり増えるのは嬉しいみたいだ。
そんな風に嬉しそうなの横顔を見るとはなんだか突っ込む気も失せてくる。
何だかんだ言って寂しいだろう。そんなに家族が恋しいのなら実家(イギリス)に帰ればいいのに。
でもこの人はに気を使って実家に帰らないことを彼は知っている。
それが嬉しい反面、申し訳ない気持ちからは手伝うしかなくなるのである。
「そういえばブナの木の根っこ、用意してくれた?」
は窯を見ながら聞いてきた。今彼はトライフルとケーキ用のスポンジケーキを焼いているところだ。
「ああ、あれは今二人に切ってもらってるよ。」
はふと切り株を必死で抜き取っているだろう二人を想像して目を上向かせた。
「うっそ!ほんとに?」
は驚いたように眉間に皺を寄せ聞いてきた。
「だって、二人ともなんだか手伝いたいって言うんだもん」
も眉間に皺を寄せながら苦笑いを浮かべていた。
何故、二人が眉間に皺を寄せたかと言うとその作業の大変さにあった。
それは経験者でないとなかなかできない大仕事なのだ。
それを始めての、しかも少年に任せるとは心もとない。
それにクリスマスの木と違って今回はブナの大木を切り倒し、そしてその根っこを引き抜くのだ。
作業の大変さはかなり違う。
「あ、でも木は切ってあるんだ。根っこを引き抜くだけだよ。」
はそんな大変な作業を子どもだけに任せたと思われたくないので訂正する。
「それにしたって、、、二人とも山には慣れてないじゃないか。遭難したらどうする!」
はを睨みつける。
「それもご心配なく。二人をその木の根のところまで案内してきたから。それに帰り道は縄持ってったから大丈夫」
腕を組んでうんうんと頷くには一つの疑問を投げつける。
「縄って、、、」
「ふふふ!ぼくって頭いいよね〜!エドたちが綱のもう片方のはじを持っててぼくが縄を持って帰ればエドたちもその縄をたどれば帰ってこれるじゃん!」
えっへんと胸を張っては自慢げに言いのけた。
「そう、、、。でもなんでまた二人は手伝いたいなんて、、、」
は首を傾げながら考えた。いつものことながら二人には本を読んだりやることがあるだろうに。
「あぁ、それはね、ぼくらがなんか忙しそうになんかやってるから自分たちだけ本を読んでるのも変だって」
子どもなのに気を使ってさー。
はそれを聞くとまたまた嬉しそうな顔をした。
「なんだかほんとに家族だな。」
そういうと満足げに作業に戻る。冷蔵庫からパイ生地を取り出す。
「ミンスパイは焼くの?」
がぼそりと聞く。
「もっちろん!の好物だろ!!ちゃーんとミンスミートも一週間前から用意してんだから!」
はから顔を背けた。
それは嬉しさで変な顔になっているだろう己の顔を見せたくなかったためだ。
この人は自分のことを家族と呼んでくれる。自分の好物まで覚えてくれている。
それがうれしくてどうしようもなかった。だけどそんなことを真っ正直に言うには照れくさかった。
「「ー!終わったよー」」
型をとり終わったちびたちがの呼ぶ。
「あぁ、ありがとう。よく出来たね」
そう言っては目を細めると二人の小さな頭を撫でた。
「「えへへへ」」
すると二人は照れたようにお互いをみながらにやけた。
「じゃあ、これを鉄板に並べようか」
は鉄板を取り出してちびたちが型をとったジンジャークッキーを鉄板に並べ始める。
「あっオレがやる!」
「兄さんがやるなら僕も〜」
がやるのを見た瞬間に二人は我先にと自分たちでもクッキーを並べ始める。
「二人とも生地、踏まないように気をつけてね。」
はその様子を苦笑しながら見つめた。
「いーなー、、、とちびたちは仲が良くて〜」
はそんな三人の様子を見ていて口を挟んだ。
「何が〜?」
「だってー僕んとこのちびはぜーんぜん手伝ってくれないよ?とういかこの頃姿さえ見せないよ、、、」
「捨てられたの?」
とは冗談で言ってみる。そしては最初目を見開いたと思うと次の瞬間から見る見るうちに沈んでいく。
「嘘嘘。そんなことないよ」
はぽろっと言ってしまった言葉を否定する。
ひゅーるりー。風がの所でだけ吹いている。
「、、、、、、、ごめん、、、。」
ちびたちとの作業を終わらすとは鉄板を窯の手前の方に置いた。
「ー、スポンジ、焼けてるよ。」
スポンジケーキの生地ののった鉄板をはクッキーの鉄板と入れ替えるように取り出した。
「、、、あ、ありがとう、、、。」
「まだ、落ち込んでたの?大丈夫だよ。今日位は帰ってくるよ」
未だ先ほどのことが頭から離れないのか憔悴しきった様子だった。
「あ、そ、そうだよな。つーか俺が捨てられるわけないよな!」
どうも、「捨てられる」という言葉にすごいアクセントが効いているようには感じた。
「、、、、、まさか誰かに捨てられたの?」
ずずーん。なにやらのまとう空気が暗くなる。
にやりとは口を曲げた。これはなんだかの意外な弱点を掴んだのかもしれない。
「ーなに笑ってるのー?」
小アルが不思議な顔をしてを見上げてきた。
「なんでもないよー。さーてぼくは二人の様子でも見に行こうかな。二人にそこの人の手伝い任せられるかな?」
は小エドと小アルを交互に見て問う。
「もっちろん!」
「うん!大丈夫!!」
二人は手伝いを「任された」ことではりきって答えた。
「じゃあ、行ってくるねー。、やけどには注意してね」
そう言うやはひらりと身を翻して台所から出て行った。
「あちっ」
「あーあ、早速やってるよ」
小エドがに突っ込んだのをは知らない。
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